久保田ビル
yonawo
触れて、愛でて、育てること。
久保田ビルの305号室。どうぞ〜と迎え入れてくれた先には、なんとも明媚なyonawo色の空間。ずらりと整列する音楽機材が、ここはスタジオと納得させる。
この日は2021年の年の瀬、次作の制作真っ最中という多忙な彼らでしたが、テーブルにたっぷりのみかんを積んで穏やかに出迎えてくれたのでした。
2ndアルバム”遙かいま”の収録曲のほとんどはここから生まれた。
荒谷 「制作するときの環境って、ほんとにすごく大切で。」
スタジオの影響を受けて生まれた曲たち。一方でそのスタジオは、彼ら自身がカタチにした。音が先か、空間が先か、はたまたそもそもの世界観なのか……。
どうしようもなくyonawoらしいスタジオにて、その答えの一端に触れるべくたっぷりとお話を伺いしました。
まずは、自分たちの感覚を信じてみる
斉藤 「いよいよ、探そうってなって。」
2020年夏、地元福岡を拠点に活動をはじめて4年目のこと、スタジオを構える流れが訪れた。建物好きの斉藤さんは目を皿にして物件を探し、久保田ビルと出合います。
斉藤 「建物自体の雰囲気がいいところを重視してて。レトロビルとか倉庫とか古民家とかいろいろ探してる中で、ここめっちゃいいやんって。」
野元 「古い家すきですね。」
田中 「みんな好きよね。」
荒谷 「古いのも好きだけど、新しいのも好きかも。感覚が合うことを重視してるような。」
築60年の歴史を持ち、浪漫あふれる久保田ビル。青緑色のタイルをしつらえた外壁は、春吉という繁華街にも負けず劣らず味わい深く艶めいている。
新古が入り混じる内装も、彼らの感覚とナイスグルーヴしたのでした。
まずは自分たちの感覚を信じてみることで、気づいたら時代をクロスオーバーしている。それは音楽に対しても同じ。
荒谷 「古いもの好きっていう自覚なく、古いものも好き。これが新しいんだとか古いんだとかは、まずはビビッときたものを聞いてみて、好きになって、そのあとメンバーと話したり調べたりして、え?これ1990年代なの?って。別にそこにこだわりがないのかもしれないです。」
斉藤 「なんでもそうかも。楽器でも家具でも。古くても新しくみえるデザインとかね。かっこいいもんはかっこいいもん。」
開放感がもたらしたもの
久保田ビルに一歩足を踏み入れると、目の前には5階まで続く大きな吹き抜け。柔らかい光が降り注ぎ、おおらかな気分へと導きます。
荒谷 「この吹き抜けあるのとないのと全然ちがうよね。」
斉藤 「前と比べたら、開放的だよね。あと、結構大きい音とか声出して歌ったりしても、意外と外に聞こえない。」
建物の中心に吹き抜けがあることで、音を籠らせず上方に流してくれる効果もあるのだとか。
斉藤 「昼間は気にしないでのびのび制作できる。」
荒谷 「気持ちもゆったりするし、いいよね。”遙かいま”の収録曲も、”ごきげんよう さようなら”と”浪漫”以外は、このスタジオの影響をだいぶ受けたと思います。」
さらには、新たなたのしみ方も生み出します。
田中 「だれもいない時、ギター触って、ひとりで歌ったりしてる。」
荒谷 「そうなんや。笑」
斉藤 「まじ?笑」
野元 「知らんやった。笑」
荒谷 「ちなみに、ここでなに歌ってんの?」
田中 「桑田佳祐さんとか。白い恋人達とか、歌詞もコードもすごく良くて大好きで。めっちゃいい曲やな〜って思いながら。」
斉藤 「なにそれ聞きたい!」
開放感を味方に、のびのびとやりたいことをやってみる。彼らの表現を加速させるために、大切な要素だったのかもしれません。
余白をたのしむことで、
yonawo色の痕跡も仲間入り
彼らがスタジオを構える305号室は、元々「痕跡と余白」というコンセプトのもと、ストックデザインラボがデザインしリノベーションした部屋だった。借り手と一緒に余白をみつけるたのしさがあるという。
−−スタジオは、自分たちで手を入れてましたよね。
荒谷 「棚とか机とか、ほとんど雄哉(斉藤)が。雄哉はこだわりが強い。植物も飾ってくれる。実家もめっちゃおしゃれっす。」
斉藤 「母親の影響で、家具や建物が好きで。実家のリビングの壁がうすい黄色の漆喰塗ってて、それでスタジオも漆喰がいいなって。湿度も調節してくれるから、楽器にもいいなって。」
イメージはみるみる膨らみ、ついに既存のキッチンも外すことに。
斉藤 「使わないし、と思って。このままでもいいかんじだったけど、オーナーの久保田さんに聞いたら、確認とってくれればなんでもしていいよって言ってくれたので、もっとやってみようって。」
野元 「代わりに新しく設置したカウンターの色も、床と一緒にしてもらったよね。床もぜんぶやすりをかけてきれいにしました。」
斉藤 「みんなでペーパーでやすってね。」
元々の壁色に合わせて、スタジオの漆喰は白色に。床色に合わせたカウンターを設置して、空間へのリスペクトいっぱいのアレンジに。この部屋のベースとなるリノベを手掛けた北嵜さんも、さすが!とうなります。
斉藤 「みんなで壁塗るのたのしかったね。」
荒谷 「たのしかった。でも、けっこう難しかった。」
斉藤 「慧(田中)がハマってたね。」
田中 「結構ハマったね。後ろから写真撮られてたけど、完全に職人だった。笑」
−−スタジオを見渡すと、至るところに「yonawo」の文字がありますね。
野元 「あれは、描きたくなっちゃって、ノリで書きました。笑」
田中 「漆喰のロゴは自分が。笑」
野元 「これは、ガムテープです。笑 バスドラに貼ってたやつを、そのままに。」
斉藤 「痕跡残りすぎでしょ!笑」
yonawoのアートワークをはじめ、絵を描く仕事を引き受けるほどの腕前をもつ野元さんとセンス抜群の斉藤さんを中心に、他にもたくさんの痕跡をスタジオに残している。そうやって、yonawoのスタジオはyonawoらしく、育ち盛りの日々を送るのでした。
そうして、徐々に目にみえるカタチとなったyonawoの世界観は、新たなアイデアをもたらします。
この空気感をまるっと伝えたくて
−−”はっぴいめりいくりすます–at the haruyoshi/Take 5”のMVを拝見しました!スタジオで録音・撮影されたとか。
荒谷 「みんなでせーので録りたいねって。」
斉藤 「ホームセッションのような。このスタジオで一発取りしたほうが空気感もいいかんじに録れるかなって。」
荒谷 「音が籠らず抜けていくかんじとか、一緒に過ごしてる雰囲気もね。一発録りは初めてでした。ライブ録音みたいな。昔はそれが主流だったから。」
斉藤 「原点にね。セッションしててそれが、そのままレコードになるっていう。」
荒谷 「めっちゃたのしかったよね。」
田中 「めっちゃたのしかった。」
野元 「やったことなかったっていうのも、あるよね。」
斉藤 「ここでやるっていうのも、たのしかった要素だよね。」
自分たちの感覚に従いみんなでカタチにしたyonawo色満開のスタジオ。場のもつ開放感も手助けし、彼らが深く握りしめていた世界観はさらに開放され、再構築されたのかもしれません。
それは、次第に自分たちの内から外へ。空間から音へ、音から空間へと響き合い、音楽となってのびやかに広がります。
「新しい土地で、4人一緒でよかったなって。」
2022年1月、彼らは愛する福岡を離れ、拠点を東京へ移します。
−−お気持ち、いかがでしょう。
荒谷 「そうっすね〜。制作やツアーで立て込んでて、まだあんまり整理ついてないかんじはあって。まあでも新しい土地で4人で一軒家に住むってね。全部新しいことで、想像つかないっすね。」
斉藤 「楽しみだけどね。逆に新しい土地で4人一緒でよかったなって。新しい土地で1人ってけっこうきついかも。」
田中 「そうね、今の一人暮らしでさえ雄哉が近くにいなかったらと思うと本当大変だったなって思う。それが東京ってなると、不安でしかないかも。」
斉藤 「家事も自分たちでやります。料理つくるのも好きなんで。」
野元 「僕はカップ麺とか。笑 あと、温泉もあるんで。」
田中 「カップ麺の生活、温泉でリカバーできんよ。笑」
−−一軒家の中にスタジオも構えるとか。
田中 「いつでも練習できる。」
斉藤 「いいアイデア思いついたらすぐ叩き起こせる。笑」
荒谷 「慧(田中)もひとりで歌いたければ、いいよ。時間つくって、交代で。笑」
田中 「ひとり一曲ずつやって交代?笑」
斉藤 「のもっちゃん(野元)は叩きながら歌う?」
荒谷 「のもっちゃんも弾き語りしよったけん。」
野元 「いいね。」
田中 「いや、公民館とかでやるレクリエーションじゃないっちゃけん。笑」
不安とたのしみを感じながらも、仲の良さを武器に突き進む。覚悟の船出は、刻々と迫ってきています。
「いいプロセスにしたい。」
荒谷 「結構、腹括って東京にいく感じなんで。大きくなって、ゆくゆくは福岡に帰ってこれるように、どう活動していくのがいいか模索したいです。最後の結果を大事に、いいプロセスにできればなと。」
斉藤 「修行ですね。」
荒谷 「葛藤できると思えば……したくてもできない人もいるだろうし。修行も楽しいと思えば楽しいものになるはずなので。しっかり楽しみたいです。」
触れられて、愛してもらって、育つ。
−−次のアルバムを製作中だとか。新しいものを生み出すのって、まるで出産のようですね。
斉藤 「出産は荒ちゃんがやってるんで、子育ては僕たちが。」
荒谷 「でも、出産一緒にしたことあります。」
斉藤 「そうやね、一緒に出産したことあるね。」
荒谷 「出産は大変だけど、でも喜び…。出産に掛けるわけじゃないですけど、喜びもあるし、苦しまなきゃ出てこないのかも?曲が育つこともあるし。」
斉藤 「そうだね。ライブとかでやるとよりよく育つ感じ。」
荒谷 「4人だけじゃなくて、一緒にライブをつくってくれる人たちのアイデアだったりもするし。育つって言葉、とてもしっくりきます。」
田中 「美しい人があんなアレンジでやれたのもね。」
荒谷 「リスナーさんに触れて、みなさんに触れて、愛されて育つって。ってなるんじゃないですかね。」
野元 「さすがだな〜。笑」
・・・
“遙かいま” release one man live tour、福岡公演の前日のこと、
「福岡でのライブは本当にあったかい。あいつらは愛されてますよ。楽しみにしててください。」
そう話してくれたマネージャー番下さんの、嬉々とした顔が思い浮かびます。
コロナ渦で声は出せずとも、その日の会場は彼らへのエールで充ちていた。
近くにいる地元福岡のファンにこれほど愛されているということ。彼らの飾らない素顔がどれほど魅力的か、この記事を通してどうかほんの少しでも伝わりますように。
彼らの覚悟の船出にむけて、私たちも、遙か西からエールという名の追い風を吹かせ続けます。
yonawo
荒谷翔大(Vo)、田中慧(Ba)、斉藤雄哉(Gt)、野元喬文(Dr)による福岡で結成された新世代バンド。
2018年に自主制作した2枚のEP「ijo」、「SHRIMP」はCDパッケージが入荷即完売。地元のカレッジチャートにもランクインし、早耳リスナーの間で謎の新アーティストとして話題に。2019年11月にワーナーミュージック・ジャパン内Atlantic Japanよりメジャーデビュー。
2020年4月に初の全国流通盤となる6曲入りのミニアルバム「LOBSTER」をリリース。
そして、11月には、Paraviオリジナルドラマ「love⇄distance」主題歌オープニング曲「トキメキ」や、史上初となる福岡FM3局で同時パワープレイを獲得した「天神」を収録した待望の1stフルアルバム「明日は当然来ないでしょ」をリリース、全国5都市で開催された初のワンマンツアーは全公演チケット即完売。
2021年1月に配信シングル「ごきげんよう さようなら」、3月に配信シングル「浪漫」、5月に冨田恵一(冨田ラボ)プロデュースによる配信シングル「哀してる」を、7月9日(金)に亀田誠治プロデュースによる「闇燦々」をリリース。そして、8月11日(水)には2ndフルアルバム「遙かいま」をリリースし、直後に「FUJI ROCK FESTIVAL ‘21」へ出演する。また、メガネブランド「Zoff」の「Zoff CLASSIC Summer Collection」のモデルも務める。
https://yonawo.com/
取材/執筆/撮影:目野つぐみ