RITZ / 吉川あかりさん

アイラッシュ&アイブロウ&ネイルサロン

「じゃあ、やってみよう」からはじまった
対話と信頼が生む、想像を超える仕事場づくり

人が行き交う西鉄薬院駅から歩いて5分。都会的なビルの5階、見晴らしのいい一角にその場所はある。モルタルの壁にすっと馴染む扉を開けると、「どうぞ〜」とにこやかに迎えてくれたのは吉川あかりさん。

2017年に東京の北千住でまつげ・ネイルサロン「RITZ」をスタート。都内に2店舗を展開したのち、一昨年には福岡にも拠点を広げ、現在4店舗を展開しています。

2児の母でもある吉川さん。起業のきっかけは、出産を機にこれまでの働き方に戻ることが難しくなった経験にありました。その経験は現在の職場づくりにも色濃く反映されており、約30名のスタッフ一人ひとりとの関係性を何より大切にされています。そうした姿勢は店舗づくりにも表れ、各店舗の世界観にまで息づいています。

今回は、モノ・コトへの確かな審美眼が光る吉川さんのお仕事や、福岡店の空間づくりについて、設計と施工を担当したストックデザインラボの北嵜さんとともにお話を伺いました。

 

 

軽やかな決断からはじまった一歩

若くして出産を経験した吉川さん。それまで積み重ねてきた経験を活かすべくサロンワークへの仕事復帰を目指して動くも、思うようにはいかず。どこも門前払いの状況が続いていたといいます。

「できることもこれしかなかったんで。じゃあまあ、じぶんで起業すればいいや〜みたいな。一旦やってみようってなりました」

実家が自営業という環境は、サロンの開業を軽やかに後押ししました。

その後すぐに物件を見に行き、そのまま契約。当時は経営を安定させるため、朝はヨガインストラクターとして働き、その後サロンに立つという二足のわらじの日々。

「やるんだったらやる。0か100かみたいなところはあります」

子育てと両立しながらの決断も日々も、決して簡単ではなかったはず。それでも吉川さんは、どこか軽やかに、ウフフと笑いながら話します。

やがてまつげパーマの人気が高まり、店舗は手狭に。移転を経て、新たに眉メニューもスタートしました。時を同じくしてコロナ禍へと突入し、マスク生活の広がりが需要を後押し。予約は2〜3ヶ月待ちとなるほどに。

「いや〜すごいな〜。スタートする力とタイミングを読む力と、まさに起業家気質をお持ちですよね」と唸る北嵜さん。

「いやいや、なんか運のいいタイミングに恵まれたんだと思います〜」と吉川さん。

ほわんとした語り口の奥にある、しなやかな強さと確かな行動力。いい流れを引き寄せる力は、そうした積み重ねの先にあるのかもしれません。

 

 

あえて大変なほうを選ぶということ

以前から地元・宮崎で出店するという夢を持ち続けていた吉川さん。まずは同じ九州である福岡から、その一歩を踏み出すことにしました。

「福岡出店を決めてから、なかなか物件が見つからなくて。でも中途半端になるのは嫌だなと思っていたんです。物件って出会いあってのものじゃないですか。オープンの目処が立たないままでいるのも落ち着かなくて、だったら先にスタッフを採用して、自分を追い込もうと思いました」

物件よりも先に採用を進めるという一見大胆な決断。それは福岡出店を現実のものにするための、覚悟の表れでもありました。

「いつも思うんですけど、新しく出店するのってめっちゃ大変なんですよね。本当に大変。だからみんな踏み出せないんだなって。でも、だからこそやっとかないとって。常に大変なほうを選ばんとなと思ってます」

その姿勢は採用の場にも表れていきます。当初はオンライン面接を予定していたものの、直接会う対面形式へと変更。会場として選んだのが、ストックデザインラボが企画・内装デザインを手がけたレンタルスタジオ「On your marks」でした。この出会いをきっかけにストックデザインラボの存在を知り、事例を見ていく中で、建物の個性を活かした空間づくりに惹かれていきます。やがて内装の相談へとつながり、ほどなくして事務所のある久保田ビルへと足を運ぶことになるのでした。

 

 

こんなに任せられるってはじめてでびっくり

「すぐに東京のお店まできて、雰囲気とか見てくださって。打ち合わせも本当にスムーズで。これまで何度か店舗づくりは経験してきたんですけど、内装をここまで任せられるのははじめてで。しかも東京にいるから頻繁に現場を見に来れなかったのに、出来上がりを見たときは本当に感動しちゃって……」

当時のことを振り返りながら、目を輝かせる吉川さん。

「家具や什器の配置のためにバミリするじゃないですか。あれも、本当に申し訳ないけど業者さんがやった後にじぶんでやらないとダメなんですよ。あとは、もっとこうしたいと思っても断念しなきゃいけないことも多くて。ライトとか細々した仕様とか、いろいろなんかあるんですよね。でも今回は、そういうことが本当にひとつもなくて!しかも、出来上がった空間がじぶんの想像を超えていて!」

言葉を重ねるほどに、当時の感動がよみがえってくるよう。

「ロールスクリーンもご提案いただいて。大きな窓から外が見えていいと思ってたけど、実際は眩しさもあるんですよね。素材もたくさんある中から選ぶのは大変なんですけど、すでに可愛いものをピックアップしてくださっていて、それが本当に嬉しくて。あとは、現場でしか判断できない微調整もあると思うんですけど、そういう相談はちゃんと福岡に来るタイミングまで取っておいてくださったりして……なんか、すごいですよね」

さらに続けて、

「あと、もう一つすごいと思ったのが、リラックスできる空間にしたいと伝えたら、ヘッドホンをつけるのもいいんじゃないかって提案してくださって。そんなおもしろいアイデアがあるなんて、北嵜さんは何者なんだろうってびっくりして。ちなみに、実際に採用させてもらってます」

吉川さんからの溢れる感動エピソードを聞いて、いつもに増して目尻が下がる北嵜さん。

「いやなんか、いや、嬉しいなぁ〜。ありがとうございます。今回はスタッフの松田さんと遠竹さんを中心にみんなで関わらせてもらって、僕以外は女性なので、だからこそ気づくこともあったのでよかったなと思います」

その言葉を受けて、吉川さんはさらに続けます。

「大事にしているところを、すごく丁寧に汲み取ってくださって。もちろんコストのこともあるので、安くできるならそれに越したことはないんですけど、どこを削ってどこをこだわるかを一緒に考えて形にしてくださったんです。そのためのコミュニケーションもめんどくさがらず、むしろ積極的にいろいろと聞いてくださって」

そして、ふと思い出したように。

「今でも覚えてます。完成したお店を深夜に見に来たんですけど、この扉を開けたときの感動を今でも覚えてます。もう、いうことなし!って。そういえばこのカウンターとかもですね……etc」

とまらない感動ポイント話は、次々と溢れ続けるのでした。

 


*散らかりやすい受付カウンターは一段下げてすっきりみせる

 


*ipadやレジまわりの充電に最適なコンセント、受付カウンターの内側に配置

 


*お客さんから見える手洗いはかわいいデザインのものを

 


*スケルトンの無機質な空間に女性らしさを演出するため、色味と質感、機能にこだわって造作したカウンター

 


*施術区間を仕切るのにカーテンをつけることが多いが、せっかくの天井高がもったいないということでオリジナルの間仕切りを製作

 


*すっきり片付けることが難しい小さな道具たちに合わせた収納

 

 

じぶんの手を動かすことで生まれるもの

福岡店の入口を開けると、まず目に飛び込んでくるのは、スタッフとともに手作りしたオリジナルのウォールアート。これまでの新店舗づくりでも大切にしてきたように、スタッフと一緒に手を動かしながら空間をつくることを、吉川さんは何より大事にしています。

今回は、福岡という土地らしさを取り入れたアートピースをつくりたいと考え相談したところ、ワークショップ形式での制作を提案されました。

ワークショップを担当したのは、廃材や端材を扱うセレクトショップ「マテリアルマーケット」を運営する久保さんご夫妻。織物の糸くずの中から好みのものを選び、曲げわっぱに巻きつけていく。スタッフ一人ひとりが制作したものを組み合わせ、ひとつの大きなウォールアートが完成しました。

「作業も難しすぎず、簡単すぎず。みんなで会話しながら進められたのがよかったです。差し色に赤を入れているんですけど、緑と迷ってなかなか決められなくて。あれ?これ誰が決めてくれたんだっけ?」

近くにいたスタッフも加わり、当時の制作の記憶が次々とよみがえります。アッハッハと笑い合う声。そのやりとりから、日頃のRITZのあたたかな空気が自然と伝わってきます。

 

 

人が育ち、場所が育つということ

起業当初は、店舗をどんどん増やしていきたいと考えていた吉川さん。けれど9年が経ち、スタッフは30名を超え、少しずつその心境にも変化が生まれていったといいます。

「働いてくれているスタッフが成長していく姿だったり、女性ならではのライフプランの変化も一緒に乗り越えていけたらいいなって思うようになったんです。そっちのほうが楽しいなって感じることも増えてきて。店長をやってみたいって言ってくれる子も出てきて、その応援やサポートをするほうが好きかもしれないなって思ったりしています」

福岡も当初は複数店舗の展開を考えていたものの、スタッフ同士の仲の良さを感じる中で、あえて離れ離れにすることに迷いが生まれたといいます。

「それよりも、みんなが愛せるお店をつくっていけたらいいなって。私もそうなんですけど、プライベートのために仕事してるっていうよりも、仕事が楽しくて来ている、という感覚の方が嬉しくて。無理に広げるよりも、みんなが大切にしているものを、ちゃんと大切にできる範囲で続けていけたらいいなと思っています」

そうした想いを支えているのが、日々のコミュニケーション。入社したばかりのスタッフとも積極的に言葉を交わし、その多くはプライベートな話だといいます。

「彼氏の話とか多いですね(笑)。そういえば今年、結婚式のスピーチをしたんです。その子が入社した時はまだ彼氏になる前だった人なんですけど、それから付き合って結婚して、なんかこういうことにもなるんだなって、すごく感慨深くて……」

ひとりの決断からはじまった物語は、いま、30人それぞれの人生と重なりながら続いています。あのときの「じゃあ、やってみよう」という一歩は、誰かの居場所をつくる選択になりました。

人が育ち、想いが重なり、場所が少しずつかたちになっていく。その積み重ねはこれからも、やわらかく、確かに続いていきます。

 

RITZ 福岡薬院店 https://ritz-salon.jp/fukuoka
RITZ https://ritz-salon.jp/

 

 

取材/執筆/撮影:目野つぐみ

WORKS「RITZ eye&eyebrow&nail 福岡薬院店」≫

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