インテリアショップ
Re:CENO FUKUOKA
シンプルな箱に味付けを
「インテリアの楽しさに出合えるお店」
福岡市の中心エリア「天神」から西へ歩いて10分ほど、新緑が美しいけやき通りの一角に建つヴィンテージマンション。その1階にある店内には、あたたかな光が浮かんでいる。
ぽわんと照らされた家具たちは温もりを帯び、器や雑貨たちは凛と立ち並ぶ。シンプルな白い壁と木の床をベースにまとめられたナチュラルな空間は、おしゃれな友人宅に遊びにきたような高揚感と安心感を与え、来る人を軽やかに迎え入れている。
今春、福岡に新しく店舗を構えたのは、インテリアブランド Re:CENO。「インテリアの楽しさを、もっとたくさんの人に。」というスローガンを掲げている。運営するのは、京都に本社を置く株式会社Flavor。代表の山本哲也さんは、15年ほど前、自ら整えた自宅のインテリアをえらく褒められた実体験が創業における初期衝動だと語ります。
哲也 「やっぱり、インテリアってむっちゃ楽しいんですよね。その楽しさを、もっとたくさんの人に届けたいなぁと思ったんです。」
あの頃からの変わらぬ想いに経験が重なり、その”楽しい”にはたくさんの要素が含まれ味わいを増した。
その隣で、我が意を得たりとうなずくのは、創業メンバーで哲也さんの妻の山本由美子さん。
由美子 「スタッフを幸せにするためにもインテリアの楽しさを広める必要があるんだ。って、ずっと言ってるよね。」
由美子さんだからこそ知る、懐かしくも現在進行形の胸の内を語ります。
そんなふたりの想いを引き継ぎ、福岡店の店長を務めるのは榎本昌平さん。
榎本 「ご来店くださったお客様が、インテリアを楽しむためのきっかけをなにかしら持って帰ってもらえると嬉しいです。」
2008年にRe:CENOを立ち上げて以降、EC事業を主軸として順調に売り上げを伸ばす中、なぜあえて実店舗を開くことにしたのでしょうか。
そこに至るまでの経緯と、想いを実現するための空間づくりについて、設計施工を担当したストックデザインラボ 北嵜さんと一緒に、たっぷりとお話をお伺いしました。
初心者でもインテリアを楽しめる
「ナチュラルヴィンテージ」
今から3年ほど前、これまでの薄利多売な形態を見直すタイミングがやってきた。
哲也 「売れるからといって自分たちがあまり好みじゃないものを売るっていうのは、なんかかっこよくないなって。自分たちが好きなもの、本当に欲しいものを丁寧に紹介してみようとなったんです。」
過去10年間で積み上げた売上データも、その方針を後押しした。
哲也 「結局、社内メンバーが好きなジャンルがいいね。となり、まだカタチのない”ナチュラルヴィンテージ”というオリジナルの造語が生まれたんです。形成する要素を一つずつ紐解くことでルール整理をしながら、インテリアのスタイルとして少しずつ確立していってますね。」
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“ナチュラルヴィンテージ”
シンプルでナチュラルな内装をベースに、トーンを抑えた統一感のある家具を配し、ヴィンテージ感のあるディテールアイテムをミックスすることで、落ち着いた印象を与えるインテリアスタイリング
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白い壁と木の床、日本の賃貸住宅によくあるシンプルな箱をベースにスタイリングすることで、内装に頼らずに再現性を高めることができる。また、アクセントカラーの代わりにアクセントアイテムをミックスするなど、基本ルールがはっきりと決まっているので迷って失敗することがない。まさに、初心者でもインテリアをたのしめるスタイルとして、人気を博している。
哲也 「でも、まだまだ途中なんです。現場のスタッフがお客様のリアクションやお話しの中でヒントをもらって、それを元にブラッシュアップする。そしてまたスタッフに実行してもらって、もっとよくして。みんなが信じて動いてくれることで、実験しながら少しずつ確立しているかんじなんです。」
そんなナチュラルヴィンテージを表現する場として、実験の場として、インテリアの楽しさを体感してもらうための場として、新店舗が誕生したのでした。
恋焦がれた九州の地
京都、東京につづいて、3店舗目は南へ。
創業以前、哲也さんが熊本に住んでいた時から大好きになったという九州。京都で創業したあとも、福岡の大川市へ買い付けに行くたびに、九州出店にかける想いは募っていった。
EC事業から始まったRe:CENOは、現在でもEC事業の中でも独自ドメインの売り上げがその大半を占める稀有な企業。その一方で、家具業界全体をみると、実店舗が7割、ECが3割という売り上げの傾向をもつという。
哲也 「インテリアの楽しさをもっと伝えるためには、インテリア好きを増やす必要がある。そして、その活動をより多くの人に届けるためには、やっぱり実店舗をさまざまな地域に出すっていうのは大事なことだと思ったんです。」
過去の販売実績が”福岡”を裏付けていたことも重なり、念願だった九州への出店が決まります。
時を同じくして、少しずつ根を張り始めた”ナチュラルヴィンテージ”。大きな武器を携えて、インテリアの楽しさを伝える舞台は少しずつ整いはじめます。
ちゃんと検討できたからこそ
いよいよお店づくりスタート。まもなくして北嵜さんとの協働がはじまります。
哲也 「北嵜さんは、最初にご挨拶した翌日には東京に行ってお店見てくれてて、うちのこと理解しようとしてくれてるんだなって。僕たちは建築のことはわからないけどインテリアはわかるんで、セミプロみたいなかんじでわりと自分たちでも空間デザインをやりたかった。その辺をちゃんと汲んでご提案いただいてたし、腰も低いし、センスも良いし。プレゼンシートも本当にきれいで、見積もりもわかりやすいし。もう最高でした。」
それを聞いた北嵜さんの目尻が、いつも以上に下がります。
哲也 「進めていく上で、僕たちもしっかり空間のイメージがあるところと、なにもイメージがなくて提案いただきたいところと、いろんなパターンがあったんです。それを破綻なくきれいにまとめながら進めてくださって。僕たちが迷ってると感じたら、まだ余裕ありますからじっくり考えてくださいと言っていただいたり。その辺のフィット感が本当に気持ちよかったんです。」
北嵜 「僕も業者さんたちも気持ちよくお仕事させてもらえました。しっかり検討いただいてフィードバックを頂けたので、業者さんにも伝えやすく結果的にスケジュールにも負担をかけずに進められて。とにかく、一緒にいいお店をつくりたい、お手伝いしたい!という気持ちが大きかったです。」
哲也 「トイレットペーパーの位置までご相談いただいて(笑)」
それを聞いて、どこか申し訳なさそうに笑いながら由美子さんが続けます。
由美子 「全空間をナチュラルヴィンテージの世界観にとことん統一したかったんです。私がとっても拘っていたので、それを汲んで声をかけてくださったんだろうなぁと。お会いしたときから北嵜さんが私たちに興味を持ってくださってたのが伝わってきて、それがそういった細かな相談や提案につながっていたんだと思うと本当にありがたいなぁって。」
そんな由美子さんの理想は、好きなものに囲まれて生活すること。
由美子 「選ぶもので暮らしが変わって気持ちも変わる。それを知ってるんで、その楽しさをお伝えしたいんです。豊かさというのかな。本当に、ぜったい変わると思っています。」
なんどもやりとりを重ね、協働の中でカタチとなった福岡店。ナチュラルヴィンテージを体感する場として、あくまでも箱はシンプルに。やりすぎない装飾を天井周辺とレジカウンターにそっと添えることで、立体的で奥行きのある店内に。
ここからまた、はじまる。
哲也 「僕一人じゃ本当になにもできないんで。大きなこと言うようですけど、またここからインテリアの楽しさを広げて、結果的にスタッフと一緒に幸せになれるといいなと思っています。」
“幸せに”という言葉を聞き、うんうんとうなずく榎本さん。その光景は、哲也さんの言葉をさらに濁りのないものにします。
みんなで幸せになる
創業当時3名だったメンバーは、今では50人。人数が増えたとしても、メンバーを幸せにしたいという想いは、変わらない。
哲也 「自分だけお金もちになりたいとは、全く思わないんです。スタッフにも家族や親御さんがいるわけですから、給与面でもちゃんと責任を持って考えたい。」
しかし、ちゃんと給与を払うためには会社が成長する必要がある。そのためには、会社を動かすスタッフの成長が欠かせない。
哲也 「うちのスタッフは、普通の販売員とは経験の積み方が全然違うと思います。接客だけじゃなく、オウンドメディアで記事も書くし写真も撮るし。個人が自分の言葉で発信するためには、たくさんのことを学ばなきゃいけないですからね。厳しい分、成長できる環境はちゃんと整えてあげて、鍛えるための補助もきちんとする。もしうちを辞めたとしても学んだことだけは自分の身になると思えれば、宿題を出してもらえる環境ってすごい豊かだと思うんです。」
その想いは社内へ浸透し、今では先輩スタッフが講師となり自発的に社内インテリア講習が開催されるほどに。
学びを深めたスタッフの記事は、暮らしに役立つ情報が満載で月間PV数100万件を突破するほどに。お客様の中にはスタッフのファンもいて、突然声をかけられることもあるのだとか。
榎本 「僕は入社して3年目ですけど、こうやって店長という立場を任せてもらえることが本当に嬉しいし、もっともっと成長したいと思っています。あこがれの先輩も多くて、こうすればこうなれるんだ!という軌跡を間近に見て勉強できるので、安心して取り組むことができます。」
哲也 「洗脳された!(笑)」
嬉しくも、冗談まじりに笑う哲也さん。
由美子 「スタッフの多くはインテリア素人の子なので、はじめはみんな苦労しながら頑張ってくれています。そんな姿を見てて、ある日突然この子変わった!と目に見えて成長がわかる瞬間があるんです。楽しんでくれてるのがわかって、本当に嬉しいんですよね。やっぱりそれは、山本(哲也さん)自身がまず頑張る!という姿勢を背中で見せていることが、大きな要因の一つなんじゃないかなと思います。」
由美子さんの話に耳を傾けながら、哲也さんは「いい話だね〜!」と、少し照れくさそうに笑います。
哲也 「幸せにするなんて偉そうなこと言ってますけど、僕一人じゃ本当になにもできないんです。みんなが一生懸命やってくれるから会社が成長するわけで。みんなのおかげで僕も幸せになっている。そこにお客さんもいれて、み〜んなで幸せになりたいです。」
それはまるで、50人の大きな家族の話。
おたがいを尊重し想い合う気持ちもあいまって、ナチュラルヴィンテージの空間はあたたかみを増すのでした。
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取材/執筆/撮影:目野つぐみ