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おどこだて

木蓮/0202 とよだようこさん


 

リノベとDIYで叶える
「想いが寄り合い夢が咲く、
お店とアトリエと住まい」

 

秋晴れの気持ちいい午前。都心から少し離れた福岡市西区小戸の静かな住宅街。あたりを見回しながら歩を進めると、ふと現れた青い瓦の一軒家。通りに面して入り口が開かれたアトリエ店舗兼住居は、ただものじゃない感を滲み出している。

今秋、新しく移転オープンした贈りもののお店「木蓮」とアトリエ「0202」。

看板の奥から、「あ〜!忘れてました。今日でしたね〜!(笑)」と、ニコニコ恥ずかしそうに登場したのは店主のとよだようこさん。おっと、大丈夫かな?と案じる私たちをよそに、「どうぞどうぞこちらから。コーヒーと紅茶とどちらがいいですか?」と、流れるように迎え入れてくれたのでした。

 

 

 

「みんなから、デジャブ?って
言われるんです。」

 

1階に開かれた店内を見渡しながら、少し懐かしそうに話すとよださん。前身となるお店「モクレン」は、小戸より山手にある早良区田村にて、約10年前にはじまった。

―木蓮のオープンを祝う企画展、清水善行さんの「花を受ける器」が開催されていた

とよださん自身もかんざしやアクセサリーをつくる作家活動を行う中で、たくさんの尊敬する作家と交流を深めた。

「素敵な作家さんがこんなにいっぱいいるから、みんなに知ってもらいたいなと思ったんです。」
と、お店をはじめるきっかけを振り返ります。

 

そんなお店に並ぶのは、展示品を静かに支える滋味深い家具たち。

「この家具たちもほとんど友人たちから譲り受けたもので。だから、新しい場所にもそのまま持っていきたかったんです。」

家具が違和感なく溶け込む空間は、まさにデジャブ。以前のお店を知っているお客さんも「そのままだね〜!」と目を丸くしてしまう程だとか。

賃貸物件なのに、なぜここまで雰囲気に合う空間を実現できたのか。そのために必要なことはなんだったのか。ここに至るまでの経緯を、とよださんの想いも含めてお話を伺ってきました。

 

 

 

「やりたいことをやってみる」精神が
もたらしたこと

 

とよださんが作品づくりを始めるきっかけは、友人の誕生日に手作りのかんざしをプレゼントしたことだった。その後、本格的に作家としての活動をはじめるまでの期間は、やりたい気持ちに忠実に手を挙げつづけ、雑貨販売から彫金、小物制作までさまざまな経験を蓄えた。

「ぐるっと一周してみて、やっぱり彫金やりたいなって。」

そんな想いを静かに燃やしている矢先、彫金でアクセサリーつくってよ!と友人に声をかけられ、アトリエ「0202」を構え本格的に作家活動をはじめます。

師匠がいないというとよださんは、どうしていいかわからない時もじぶんで考えてどうにかする。果敢に手探りで挑んできたそうです。それには計り知れないパワーが必要なのでは?と尋ねると、
「まあでも、やりたいことやってるから。いやなことやってるより、むしろたのしくて。」と、少し申し訳なさそうに微笑みます。

まずはやってみる。必要に応じて経験することで自然と身に付くものを大切にする。そうやって、じぶんのできることを増やし、できる範囲を把握していく。とよださんのチャレンジング精神はお店づくりにおいても例外ではなく、DIYもやってみる!ことができたのでした。

 

 

 

「共につくる」ということ

 

この物件は、入居者が自由に手を入れられる賃貸物件「おどこだて」として企画。まちや建物の魅力を理解し、ご自身の活動がよりよく表現できる場として使っていただける方かを内覧時にヒアリングを行った。

「物件がより輝くためには先に貸し手が手を入れて貸すのではなく、貸し手と借り手が物件と向き合って共に創っていくプロセスを作り出すことが大切です。賃貸でもじぶんの暮らしにフィットした場所がつくれる。それがもっと普通になるといいなって。」
今回、担当した北嵜さんの想いを聞いて、それがよかったんです!と言わんばかりに大きく頷くとよださん。

造作や水回りは北嵜さんにイメージを伝えまるっと一任。壁の漆喰とペンキ塗りなどの仕上げはとよださんが担当することに。テンポ良くベース空間が整ったあとは、物件と自分たちの感性に折り合いをつけながら、もうひと手間加える。紙漉思考室にふすまの張り替えを頼み、お庭の整備は庭師のご友人にお願いした。

「ひと続きの空間にしたかったので壁を壊しました。入り口も通り沿いに持ってきて、そこに土間もつくっちゃって。」

その土間に腰かけると秋の冷たい風が心地よく触る。目線の先には、手入れを始めたばかりという茶緑色の庭。そこには、一緒に引っ越してきた木蓮やハナミズキが並びます。

「前のお店にはデッキがあったんです。知り合いがきたらすぐお茶なんか出しちゃって、こんな風に庭を眺めながら過ごしたり。それはここでも変わらないみたい。」と、嬉しそうに話すとよださん。

田村の物件を離れることが決まったとき「まだやりたい。」と思った。その静かに燃える想いは、新しい場所での再現を導いた。それは、これまで関わってきた人たちとの間に確かに感じた大切なことを、再び抱きしめなおすことで実現できたのかもしれません。

 

 

 

受け入れ上手なふたり

 

物件探しで一番の条件だったのは、庭があること。手入れを担当するのは早良区田村にて「プラスバー」を経営する夫のゆきちさん。

「庭が落ち着くまでは、3年くらいかかるかな〜。」

キッチンカウンター越しに違和感なくす〜っと会話に参加してくれるあたり、バーでの普段の佇まいが目に浮かびます。
あれ?この感じどこかで……と記憶をたどると、今朝のとよださんの流れるようなお出迎えが蘇ります。

まさに、ふたりは受け入れ上手。この才能はアトリエ店舗兼住居というスタイルにもピッタリだったのかもしれません。

「石の上にも3年。人間も植物もよく言ったもんですよね。」

とよださんの実感が込もった言葉が胸に響く。うまくいかなかった日もあったけど、そこにいる誰かと話すことで背中を押してもらっていた。一つがんばって、また一つ。まずは3年、そしてまた次の3年と積み上げる。

庭がようやく落ち着く頃には、木蓮は3度目の花を咲かせる。関わる人々の想いを栄養いっぱいにたくわえて、やわらかく深く根付きますように。

取材/執筆/撮影:目野つぐみ

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